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京都地方裁判所 昭和41年(レ)23号 判決 1967年4月15日

控訴人

内田基一

右訴訟代理人

名倉宗一

被控訴人

川中長治郎

被控訴人

荒川良輔

被控訴人

山本清太郎

右三名訴訟代理人

上西喜代治

浦井康

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は「原判決を取消す。控訴人に対し、(一)被控訴人川中は、別紙目録(4)の建物を収去して同(2)の土地を明渡し、同(5)の建物を収去して同(3)の土地を明渡せ。(二)被控訴人荒川は、同(4)の建物より退去して同(2)の土地を明渡せ。(三)被控訴人山本は、同(5)の建物より退去して同(3)の土地を明渡せ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決と仮執行宣言を求め、被控訴人等訴訟代理人等は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、以下に補充するほか、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

当審において、控訴人訴訟代理人は次のとおり主張した。

「仮りに、訴外西口志づが法定地上権を取得したとしても、同訴外人から本件建物を譲受けた被控訴人中川は、法定地上権取得につき、対抗要件を欠いている。」

理由

控訴人主張の請求原因事実および被控訴人等主張の抗弁一の事実中登記関係事実は、当事者間に争なく、<証拠>によれば、抗弁一のその余の事実(ただし、訴外丸沢四郎が根抵当権設定契約を締結したのは、昭和三八年七月一日)および控訴人が強制競売にもとづく競落許可決定の確定により旧四五番地の二の所有権を取得した後、被控訴人川中が昭和三九年一月八日西口志づから本件建物の所有権の譲渡を受けた事実を認めうる。

本件のように、土地およびその上に存在する建物を所有する者が、土地および建物について、抵当権設定契約を締結し、その登記手続をなした後、建物所有権を乙に譲渡し、その登記手続をした場合、甲が、強制競売に基づく競落によつて、土地の所有権を取得したとき、乙は、民法第三八八条により、建物敷地について、法定地上権を取得するものと解するのが相当である((1)最高裁昭和三七年九月四日判決、民集一六巻一八五四頁「同一の所有者に属する土地及びその上に存する建物が同時に抵当権の目的となつた場合においても、民法第三八八条の適用がある。」(2)大審院大正一二年一二月一四日連合部判決、民集二巻六七六頁「抵当権の目的たる土地又は建物が其の競売に至るまで同一所有者に属せざる場合に於ても民法第三八八条の適用あるものとす。」(3)大審院大正三年四月一四日判決、民録二〇輯二九〇頁、「民法第三八八条に所謂競売の場合とはただに抵当権実行の為に競売ありたる場合のみならず抵当権者に非ざる他の債権者の申立に因り強制競売ありたる場合をも包含する趣旨なりとす。」)

したがつて、控訴人が、競落許可決定確定により、旧四五番地の二の所有権を取得したとき、訴外西口志づは、本件建物所有を目的として、別紙目録(2)、(3)の土地について、法定地上権を取得したものと認めうる。

建物所有権の譲渡契約は、反対の特約のない限り、右譲渡契約の当事者の意思解釈として、建物敷地に存在する地上権譲渡を含むものと解するのが相当であるから、反対の特約の認められない本件において、被控訴人川中は、西口志づから、本件建物の所有権の譲渡を受けると同時に、西口志づから右地上権の譲渡を受けたものと認めうる。

本件のように、土地所有者甲と建物所有者乙との間に、民法第三八八条所定の法定地上権が成立した後(土地所有者甲が、乙との契約により、乙に対し、地上権を設定したときも、異別に解すべき理由はない)、乙が、丙に、地上権を譲渡した場合、甲と丙とが両立しえない物権相互間の優先的効力を争う関係となる事実(例えば、甲乙間に地上権が成立し、その地上権設定登記がなされた後、乙の地代滞納にもとづき、甲が地上権消滅の意思表示をしたが、地上権消滅の登記をしないうちに、丙が乙より地上権を譲受けた事実)が認められる場合を除き、丙は、地上権の乙より丙への移転について対抗要件を具備しなくても、乙より取得した地上権を、甲に対抗しうる、と解すべきである。けだし、設例の場合、甲と丙とは両立しえない物権相互間の優先的効力を争う関係にない点および甲と丙との利益の比較衡量の点より考えて、乙より丙への地上権移転登記の欠を主張するについて、正当の利益を有しないものと解するのが相当であるからである。(大審院昭和一二年六月五日判決、民集一六巻七六〇頁は、「甲は本件地上権に対する登記義務者にして民法第一七七条に所謂第三者に該当せざること言をまたざるが故に右地上権の移転に付登記存せずとするも地上権者たる丙は其の登記義務者たる甲に対抗し得」と判示し、甲が地上権設定登記義務者である点を強調しているが、この大審院判決の事件および本件のように、甲が乙に対し地上権設定義務を履行していないときのみならず、甲が乙に対し地上権設定登記義務を履行しているときにおいても、異別に解すべき理由はない。)

したがつて、被控訴人川中は、地上権の西口志づより被控訴人川中への移転について対抗要件を具備しなくても、西口志づより取得した地上権を控訴人に対抗しうる。

被控訴人荒川が、本件建物のうち別紙目録(4)の建物を、被控訴人本山が、本件建物のうち同(5)の建物を、それぞれ被控訴人川中から、賃借しているとの被控訴人等主張事実を、控訴人は、明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべく、右事実によれば、被控訴人荒川、同山本は、適法に、被控訴人川中の法定地上権を援用しうる。

よつて、控訴人の本訴請求は失当であるから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(小西勝 石田恒良 辰巳和男)

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